連載官能小説
これは果たして秘密の暴露なのか逝かれた妄想なのか?
虚構と真実が交錯する瞬、巧妙に計算されたリアルが動き出す。

 「803調べ」 生活感溢れる娑婆のそれとは違い、淀んだ時間が空調の音の中で無機質に伝達される。それはまるでようやく散歩に連れ出してもらえる従順な飼い犬のように、よしとばかり筆記用具やハンカチなどの私物をパパッと手に取る。鉄柵が解錠され自分の番号の書かれたスリッパを履くと「行ってらっしゃい」と後ろから野太い声がかけられる。新聞の一面を賑わす大者二人のお見送りだ。犯罪者であっても超一流ともなると人を惹きつけるオーラーが心臓を鷲掴みにしてくるものだ。「行ってきます」廊下に出ると留置管理課の爽やかな係り官がカウンターとも言える受付の前で、差し出した両手に鉄の輪っかを嵌めてくる。きりきりきり 手首から抜け落ちないように輪っかが狭められる。「今日"自弁"頼んでたよね?冷めないうちに帰っといでや」 *自弁とは配給される食事の他に夕食時決められたメニューからきつねうどんやカレーライス等、自分のお金で別途出前を頼める自前弁当の略語である。

 通路を抜け一つ目の扉を開け更に詰所横をクランク状に進むと長い廊下の突き当たりのドアに行き着く。係り官がノブを回すと留置管理課のデスクが並ぶ殺風景だが活気のあるフロアが広がりその傍らに担当刑事が待ち受けていた。「おお店長、よー寝れたか?」「眠剤出して頂いたんで。」調べ室へのフロアへ続くエレベーターへ乗り込む。「後ろ向いとけよ」刑事に促されエレベーターの奥にへばりつくように目の前の壁を見つめる。面会者や出入り業者などに顔を見せない配慮だがワッパを嵌められる瞬間より寧ろこのエレベーターの壁を見つめる瞬間にしみじみやっちまったと思えるのである。

 そうして数ヶ月を費やしいつか書こうとしていた自伝的な読み物が執筆されてゆくのだった。それは今までに見たどの官能小説よりリアルで生々しい調書と言う名の読み物であった。


■第一話:淫行少女 名高 芽依
広井肇

プロローグ

 京都 烏丸四条駅前、赤い泥除けを施した傷だらけのSUVから降りたった男は足早に改札口に向った。
広井肇 三十才、学生服の製造メーカーに勤める傍らサイドビジネスとして当時まだ珍しかったネットショップを運営していた。ウィンドウズ95がリリースされパーソナルコンピューターがいよいよ普及の第一歩を踏み出し、パソコン通信と言うアンダーグランドな世界が一気にインターネットと言うビッグウェーブに呑み込まれた時代だった。
ヒスノイズノスタルジー、ダイアルアップ回線から流れるそれはまだまだ未開の無法地帯であった。

 改札口に近ずくとひとりの少女が駆け寄ってきた。名高 芽依十四才、すらりと伸びた長身にスレンダーなボディー、バストは八十六センチと申し分ない。広井のモデル募集サイトに応募し先週面接を済ませていたので面識はあった。モデルと言ってもブルセラハメ撮りのアダルトサイト、募集年齢は無論十八才以上とていたがむしろ無防備にバイト感覚で応募してくるのはこうした幼い少女であることは然程珍しい事ではなかった。契約内容は通常のアイドル然とした写真を撮る傍にアダルトサイト部門のブルセラビデオのシナリオに基づいたカメラテストを行う所謂リハーサルモデル。これなら実際にそれを商品化するわけではないので法律的にも問題ないと上手く丸め込むのが常套手段だ。まだ処女であることから本番はNG、やったことが無いのでお口はムリとのこと。基本給にフェラ代や本場代を加算するギャラの体系だ。

 広井は軽く手を挙げ車までエスコートした。助手席側に回りドアを開ける。「どうぞ」仔鹿のように可憐な少女は軽く会釈をしてからナビシートに滑り込んだ。駅から東方向に向かい初めての交差点を右折し南へと車を走らせる。その間、たわいない話にも笑い転げる芽依にまるで警戒心や緊張感は感じられなかった。名神高速道路の高架をくぐるとすぐにラブホテル街に到着した。低い天井の駐車スペースに滑り込みランプの付いている案内板横の駐車スペースに車を停める。横の入り口から階段を上がると誰にも遭遇せずに部屋に入れる仕組みだ。衣装と機材がパンパンに入った黒いボストンバッグをトランクから出しずしりと肩に掛ける。ゆっくりエントランスから階段を上がり部屋の前にたどり着くと芽依は広井の後をヒョコヒョコと軽い足取りでついてきた。がしっとノブが下りる音がして今にも朽ち落ちそうな禁断の入り口が開かれた。

 

  

■第二章 芽生え
■第三章 口淫
■第四章 早熟
■第五章 お医者さんごっこ